叢荘8148号室―インチンコラム「草ヒロ探索紀行」其乃壱(1)
其ノ壱
「探索隊 おおいに誤解されること」
(1)

自分と自分を取り囲む環境を、客観視してみつめるということは、簡単なようでい て大変難しいことだ。

難しいというより、ある種の恥ずかしさが伴う。

ことに趣味に没頭している様は、人によって様々だし、没頭の度合いにもよるが後で思い返してみると気恥ずかしいものだ。草ヒロ探索を一日敢行し、こうして思い返しているとやは りなんというかその、気恥ずかしさを感じる今日この頃なのです。

レーダー巡回中

前回、「序」にも書いたとおり我々の草ヒロ探索は私の運転する車という移動手段でな される。当然車中から草ヒロを見かけたら、車を適当な路肩に駐車して徒歩で目的地 まで向かう、というわざわざ説明するまでもない程当たり前な行動にでる。運がよけ れば草ヒロ達は、ものの数分で次から次へと我々の目の前にその姿をあらわすことに なるわけだが、運が悪ければ数時間かけてもち〜とも見つからないこともある。そし て大方我々は運が良くないことのほうが多い。おそらく探索隊メンバーの運勢は、多 少他人より悪いかなというくらいで、各々が単独で生活しているときはさほど目立た ないと思うが、3人集まるとそれはもはや凶悪な悪さを露呈するのかもしれない。い わば運の悪さが三乗されるのであり、靴紐はブチリときれ、カラスがかぁ〜と鳴き、 101匹黒猫ちゃん大行進という様相を呈する。何を大げさな、と一笑にふせること が恐らく探索隊メンバーの誰もが出来ないという事実がさらに痛々しい。記述してい て悲しくなってきたので、ここで各々の運の悪さ暦を披露しようかとも思ったがよす ことにして話を先にすすめる。

さて我々探索隊の行動は概ね次の調子だ。道中さまよい、数時間かけてお目当ての 草ヒロらしきモノカゲがみつかると、隊員はうひゃぁと叫び、車は派手な音を立てて 急停車し、喜びの余り半狂乱となった我々はもはや含み笑いを隠し切れずに手に手に カメラをひっさげ、ちぎれた靴紐を慌てて結びなおし、車から転げ落ちるように降り る。それでも走行中の車中からみかけたそれらしき物体がはたして草ヒロなのか?  ひょっとして只の見間違えかも・・・という不安を速く解消したい一心で小走りで、ま た誰もが現場に一番乗りしたくて仲間を追い越す、追い抜く、黒猫の大行進をひょいと飛び越す。草ヒロは逃げないのだけど、近くの電信柱に止まっていたカラスは かぁ〜と鳴いてどこかに逃げて行く。はたしてそれがまごう事無き草ヒロそのもので あったとき、我々の喜びは頂点に達し、様々なアングルでそのカメラに収めようと、三 人しかいないけど三々五々に散り、含み笑いどころか高笑いと奇声をあげつつパシャ リパシャリとシャッターをきる。

やはり思い返し客観視してみると恥ずかしい。客観視しなくても充分恥ずかしい じゃないかというご指摘はメールでヅラヲ氏までどうぞ。 とにかく我々探索隊メンバーはみな三十路近いというのに、なんという体たらく・・・いや、なんと無邪気で少年の心を忘れない純真な精神の持ち主なのだろうか! プラス思考ですか? プラス思考ですね。プラス思考はともかく己で省みてこれなのだから、他人サマがこんな一幕を目にしたら一体何を思うのであろう? 実はそんなことに思いを馳せたのは、本格的に我々探索隊が活動を始めた10月の探索行の最中に起こったささやかな出来事が理 由なのです。

朝早くから開始されたその日の草ヒロ探索行は、出だしは好調だった。いや好調で はなかった様な気もするが話の都合上好調だったということにしておこう。要は例に よって、対象物件にしばらくお目にかかれない空白の時間が流れたという事実なの だ。私は今だから白状するがステアリングを握ったまま少し欠伸をした。そのとき だった。助手席からほとんど悲鳴に近い声でヅラヲ氏が叫んだのだ。

「今、草ヒロらしきものが、見えた! しかも3台並んで! フガフガ!

フガフガ!

そう、彼ご自慢のヅラレーダーがギャンギャンに反応したのだ。前述の通り我々3人は急停車した探索車から転げ降り、ちぎれた靴紐もそのままに、黒猫を飛び越え、カ ラスがかぁ〜と鳴くのも委細構わずに現地に急行した。 そこにはレーダーの反応の通り3台の草ヒロが我々を待ち構えていた。その時の3台の写真は今回のページではりつけてあるそれである。しかし同時に難題も我々を待ち構えていた。隣の更地に、軽四トラックを停めたその土地の持ち主とおぼしき中年夫婦が「売り地」の看板を立てる作業をしていたのだ。我々は慌てて、踊っていた草ヒロの神にささげる喜びの踊りをとりやめ、直立不動の姿勢でそちらの様子をうかがった。すると当然先方様も、この 突然現れたウカレポンチ3人組のほうをじっとうかがっている。ごほんとひとつ咳払 いをすると、この局面に戸惑っている隊員を尻目にヅラヲ氏がツカツカと夫婦の軽四 へ歩み寄り状況の打開を図る。


「あのぉ我々はこういう廃車を写真に撮ることを趣味でやってるんですけど、こちら の車撮らせてもらってもいいですかねぇ?」
「あぁ? まぁそっちはウチの地所じゃねぇし、いいも悪いもいえんが、まぁ写真撮る だけならいいんでねの?」

さすがベテラン。残された隊員はヅラヲ氏の落ち着きブリにはなはだ感服した、心 の中で喝采をした、投げキッスをした。ヅラヲ氏は、ほとんどスキップに近い歩き方 でこちらに戻ってくる。

■次ページ(2)へ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送