序 発端は2006年の春先、桜が咲き始めた頃である。 インチンコラムにも書かれたことだが、我々3人は時折り日常の多忙さの中に暇を見つけ出し、打ち合わせと称して喫茶店でダラダラとくだらない話をするのに興じることがある。 3月も終盤に差し掛かり、年度末の忙しさを縫って、偶然3者の暇を取れる日が重なった。そこで久々に近況報告なども兼ねて集まることになり、某市の某喫茶店にて集合となった。 実はこれ以前に月イチのレギュラー探索で顔は合わせているのだが、どうも2005年の秋口から年明けまで捕獲車の不振が続いており、それに併せて日夜草ヒロづくし、寝ていても夢枕でライトコーチが走り抜けるというほどのヅラヲは、かなり参っているようであった。趣味への没頭と深化は過度では良ろしくない。目的と手段がすりかわって賽の河原の石積み状態になっては、たんなる苦行と化している。完全に趣味の領域を逸脱し、このままでは草ヒロを見つける前に本人が生きながらに涅槃へ到達してしまうのも時間の問題だ。 探索時も出発前に「どうせ見つからないよ」と顔を曇らせ、「もう無理なのかな」「見つからないのは私のせいですよ。空が青いのも雲が白いのも」と吐息混じりに繰り返すことが多くなった。 そんな折であったので、喫茶店に集まったのも、なかば彼の精神的な不調を和らげるべく、プレッシャー云々は抜きにしてゴールデンウィークの予定を詰めるということで集まったのだった。 私とインチンが先に落ち合い、待ち合わせ場所の広場で煙草を吸いながら雑談をしていたのだが、話題はヅラヲのことで、最近どうもオカシイ、休息が必要なのではないか、といった内容が大半を占めた。 そのうちしばらくしてふらりとヅラヲが現れた。表情こそ変わらないものの、あまり感情に起伏といったものが感じられず、疲労が感じられる。私とインチンは互いに眉をひそめた。 早速喫茶店に落ち着いてコーヒーを三人分注文し、「さて、GWはどこ行きましょうね」とインチンが切り出す間もなく、ヅラヲは突然バッグから数十枚の紙片を取り出し、机に広げた。 キョトンとする我々二人を見るでもなく、彼は唐突にその紙片を手に持つと、 「実はですね、草ヒロと私のバイオリズムに一定程度の相関性があることに気が付いたのです」 と語り始めた。「これをちょっと見てください」と彼は手に持った紙片を我々二人に渡してくる。見ると何か帯グラフのようなものと、幾つかの双曲線など、エクセルで作成したらしい表がプリントされている。 「まずここです」 ヅラヲは赤ペンを取り出すと、表の一部を指し、「これが私の日常における精神の高低を1ヶ月単位で平均化したものをグラフに直したものです」と言い、次に別のコマゴマとした表をサッと赤で囲んで、「これが草ヒロの平均獲得数、およびレア度に従属する私の血圧、脈拍数です」と上目遣いで言う。 |
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